憲法24条研究ノート(6)学説②宮沢説

君塚論文に基づく憲法24条をめぐる学説紹介の第二弾は、戦後憲法学をリードしてきた宮沢俊義の学説を検証していきます。
foresight1974 2021.06.23
誰でも

こんばんは。

本当は、本日の選択的夫婦別姓最高裁決定について、何か書こうと思ったのですが、あまりに腹立たしい内容のため、予定通り連載を続行します。

「敵の狙いはこの攻撃で英国民の向上心をくじくことだ、ここで私達が勉強を放棄したら、それこそヒトラーの思うツボだ!」「今こそ学び、新たな文明を築くときです」
ユーリー・スコット

<参考論文>
君塚正臣「日本国憲法24条解釈の検証ー或いは『「家族」の憲法学的研究』の一部として」関西大学法学論集52巻1号(2002年)

君塚教授が、論文で学説の二番目として紹介されたのが、「人権ではあるが分類不能とする立場」。
その典型として宮沢俊義の名前を挙げています。

宮沢は、日本国憲法第三章の人権規定は、「かならずしも厳格にではないが、だいたい論理的・体系的に構成されている」とした上で、人権を大きく、「法の下の平等」を含む自由権(※)、社会権、「能動的関係における権利」の「だいたい以上三種に区分することができる」とし、これに従って著述を進めているが、「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」については、基本書の中では孤立した一つの章で取り上げている。
まず、「個人の尊厳と両性の平等に立脚する家庭こそ、民主社会のもっとも重要な生活単位であり、」「憲法は、それをどこまでも守ろうとする」ものであると指摘する。そればかりか、「十分に近代化しない社会に見られるような家族制度は、平等な個人の価値に立脚していませんから、個人主義に反」する「封建的」なものと断じ、「現に、多くの西洋人と日本人との生活をくらべてみた場合、どちらが本当の家庭生活をより多く尊重しているか、答えは、きわめて明瞭です」として、同条の目的を専ら「家」制度の廃止にあるとしたのである。
前掲君塚論文P.18~19

その論拠として、宮沢俊義「憲法Ⅱ 新版」(法律学全集 有斐閣)と「憲法入門」(勁草書房)の記述を上記のように引用されています。

ただ、私が引用元に当たったところ、次のような記述もみられます。

日本国憲法は、これにくらべて、平等を強化した。その第一四条は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とその原理を明白に定めているが、このほかにも「両性の本質的平等」を定める第二四条や、国民に「ひとしく教育を受ける権利」を保障する第二六条や、選挙権・被選挙権の資格についての平等を定めた第四四条など、同じく法の下の平等の原理を、それぞれ個々の事項について、特に規定している。
宮沢俊義「憲法Ⅱ 新版」(法律学全集 有斐閣)P.267

これに注目すると、宮沢は、24条は14条の特則と捉えているようにもみえます。
このほか、宮沢の見解は国務請求権の1つとして捉えていると評価する見解もあります。

<参考文献>
川口かしみ「憲法24条の解釈について-「差異のジレンマ」の観点から再考した「両性の本質的平等」原理」早稲田公法研究114号33頁以下、前掲宮沢P.408~409

ここでは、いったん、君塚教授の宮沢説の評価に基づいて研究を進めていきます。
この分類不能論ですが、宮沢説のほか、覚道豊治説、それから大胆(というか無謀にも)「二四条について特に触れない説」も紹介されており、その例として、浦部法穂神戸大学名誉教授を挙げています。
え?と思って浦部名誉教授の「憲法学教室」久しぶりに読んでみましたが、、、確かに、ない。気づかなかった。。。

こうした分類不能な各説に対して、君塚教授は厳しく批判していきます。

以上は、憲法二四条の分類についての当惑を率直に表したものだと言えよう。だが、宮沢説が伝統的枠組に適さないからといって実定人権規定を分類不能とするのは主客転倒の誹りを免れない。寧ろ、日本国憲法に適合的な人権体系を見出すべきであろう。また、人権の性格が不明なままであれば、その保護範囲も不明確となり、今日的には司法審査基準や合憲性判断基準もよくわからないままとなる危険があろう。より直截には、それは学問的に坐りが悪い印象を与えた。こういった理由からか、この立場もあまり採用されることはなかった。即ち、多くの学説は、この新奇な条文をなんとか従来の枠組の中の何れかに分類することをしようとしたのである。
前掲君塚論文P.19~20

(この連載続く)

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