憲法24条研究ノート(7)学説③自由権説
今週もこの君塚先生の次の論文から学説紹介をします。
<参考論文>
君塚正臣「日本国憲法24条解釈の検証ー或いは『「家族」の憲法学的研究』の一部として」関西大学法学論集52巻1号(2002年)
宮沢説の影?
今週は、憲法24条を自由権と整理するものです。
君塚教授によれば、これが「明確に人権分類を行った学説の最初の方向」(前掲論文P.20)とのことですが、2021年に改めて憲法を勉強しなおしている私のような人間からすれば、あの条文を"自由の保障"と読むには違和感があります。
が、当時としてはかなり自然だったのではないでしょうか。
当時のスローガン的にいえば「婦人"解放"」なわけで、封建的制度に縛り付けられた女性の立場の「自由化」の一環として憲法24条が定められた、という世界観。
自由と平等というと、現在は並立的な概念のように捉えられますが、当時は、「平等権を、不平等な差別をうけない自由を内容とする自由権」(宮沢俊義)と捉える発想も有力でありました。
※宮沢俊義「憲法Ⅱ」(法律学全集 有斐閣)P.202 このようにみると、前回ご紹介した宮沢説は、ここに位置付けることも可能な印象を受けます。
しかし、戦後憲法学が隆盛するにつれ、学説は分岐・百花繚乱の様相を呈します。
百花繚乱
前掲君塚論文がP.20~22において紹介するのは次のような学説です。
<註解日本国憲法>
家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を要求し、封建的家族制度における家のため、男子のための拘束から、個人特に婦人を解放することを目的とする。
24条は、私法上の身分関係、家族生活関係における発現にほかならず、それだけに本条は、国民にとって消極的な自由権的人権を保障するに過ぎない。
<俵静夫>
封建的な家族制度から個人、特に婦人を解放し、婚姻と家族生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を確保しようとするのがその趣旨。
<渡辺宗太郎>
自由権の1つとして解説。
国家に対して、女性は男性との共同生活において、性別のためにする差別扱いをされない自由を持つことを保障されなければならない。
これら3説に対して、積極的自由権と説く見解もあります。
<和田英夫>
「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」を、「居住・移転及び職業選択の自由」「財産権」と並ぶ「社会経済生活の自由権」の一部と考える。
私生活における一個人としての平等を、封建的・家父長主義的・男尊女卑的家族制度の徹底的廃絶の方向に向かって実現しようとしたものであり、現代の社会の家族生活は、原則として、国民生活とりわけ消費経済生活の単位をなすことにかんがみて、この立場を採る。
<小林直樹>
市民の経済・社会的自由権の中の、市民法的諸権利の一つとするもの。
居住・移転・職業選択の自由とプライバシーの権利と並列した位置づけ。
近代的市民法の憲法的基礎と捉える。
何よりも前近代的な日本の家族制度の批判とその近代化あるいは自由主義化の意義をもつといえるが、その反面、もう一歩進んで新しい家族生活を支えるための国家的配慮までは示していないとする。
消極的な憲法上の意義
これらの諸説を、現在の立場から改めて見ると、見劣り感は否めません。
実は、これらの自由権、そして先週ご紹介した宮沢説にも共通するのですが、戦後すぐ直後の「家制度の廃止」の象徴としての24条。婦人の"解放"を象徴する24条としての位置づけで満足してしまっているのです。
そのため、これらの解説書で、現在の憲法学説にみられるような、民法750条のような形式的・文面的には違憲とは直ちに判断しづらい、価値中立的な規定に対する問題関心は、全くといっていいほどみられません。
君塚教授も、宮沢にとって新憲法が制定され民法が"根本的改正”がなされたとあって、「違憲の民法の条文は殆どなかった」、註解日本国憲法の解説は、「新民法の規定を包括的に承認した感が強い」と評しています。
君塚教授の評価
そして、これらの自由権説を次のポイントから批判します。
①文言上、「夫婦が同等の権利を有する」「個人の尊厳と両性の本質的平等」となっており、自由権的表現は相対的に少ない。
②婚姻関係すなわち夫または妻の権利義務を、合意によって自由に定めることができる、という意味に解することはできないし、憲法上、いくつかの原則を定め、このような原則に従って夫婦生活が営まれていくことを国が保障したものである。
③制定過程において、家族が国家からの自由を享受するということはいずれの立場からも強調されていない。
④上記のように学説が分岐しており、自由権の分類がどれか問題になる。
⑤④に関連して、違憲審査基準が問題になる。和田説や小林説では、いわゆる緩やかな審査基準が妥当することになり、それが妥当か問題である。
このため、「これらの立場もまた、有力化することはなかった」とされています。
(この連載続く)
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