憲法24条研究ノート(12)2000年以降の学説の展開

先週までお届けした、君塚正臣横浜国立大学教授による24条の学説紹介の補論編。
辻村みよ子東北大学名誉教授の著作からカバーします。
foresight1974 2021.08.04
誰でも

こんばんは。
少々近況を。一言で。
めっちゃ夏バテです。めっちゃ辛いっす。
冷たい物取り過ぎました。(小学生)
元気になるライフハックをゆるーく募集します。

***

先週まで、君塚正臣横浜国立大学教授の労作ともいえる、戦後憲法学・民法学の学説検証論文を8回にわたってご紹介しましたが、この論文は2002年に書かれたもので、それ以降の学説の展開をカバーしている論文はありません。

そこで、最近の学説の展開について論じられているものを探しました。

<参考文献>
辻村みよ子「家族と憲法」(日本加除出版)143ー149頁

辻村教授の評価

戦後の憲法学界を概観すれば、憲法制定直後を除き、憲法学における憲法24条及び家族問題への関心は極めて低かったといえる。しかし1990年代から、最高裁の婚外子相続分差別違憲決定等の憲法訴訟の展開によって、解釈論として、憲法14条との関係で論じる機運が高まった。とくに2008年国籍法最高裁違憲判決等によって、家族観の変化が違憲判断の理由として用いられたことや、同性婚の問題などが次第に関心を集めるようになって、家族問題や憲法24条への憲法学説の言及も次第に多くなっている。
前掲辻村P.143~144

辻村教授はこのように述べ、次のように主要な教科書における24条の解説を紹介されています。

① 芦部信喜「憲法(第6版) 高橋補訂」(2015年)

初版第7章に「包括的基本権と法の下の平等」という章をおいて憲法13条、14条について解説し、憲法14条1項の中で、民法733条や900条に関する判決を紹介しているが、憲法24条についての解説項目や言及自体、全く存在していない。

※辻村教授は上記のように指摘していますが、新版補訂版P.123では、芦部は、憲法における平等権ないし平等原則の徹底化の1つとして24条を挙げています。

② 佐藤幸治「日本国憲法論」

芦部同様、憲法24条につ9いての項目はなない。ただし、憲法14条の解説の脚注で、民法諸規定の合憲性に疑問を呈している。

③ 野中・中村ほか「憲法Ⅰ(第5版)」

執筆者は中村睦男。
法の下の平等に関する節のなかに「家族生活における両性の平等」の項目を設けて、憲法24条の保障内容について解説している。

これによれば、憲法24条は明治時代の男尊女卑思想に貫かれた「家」制度の解体と、新しい近代的な家族制度の構築を指示したものと解される、とする。

さらに、現行の規定の中にも、違憲の疑いがもたれたり、合理性に疑問が呈されるものがいくつかあるとして、民法731条、733条、762条1項、750条などを列挙している。しかし、いずれも疑問や批判が指摘されたり、夫婦財産制は不合理とはいえない、夫婦同氏制も違憲性を否定するなど、違憲判断には消極的である。

④ 高橋和之「立憲主義と日本国憲法(第3版)」

憲法24条についての項目はない。ただし、14条の別異処遇の合理性を判断する枠組みについて、「差別は常に法の文面上行われているとは限らない。文面上は平等に扱っているが、実態・結果において不平等が生じているということもあり、実質的平等の観点からそのような場合も平等問題(間接差別の問題)と捉えていく必要がある。」とする。

また、平等権侵害の場合の救済方法について論究し、「平等権を侵害している場合には、その規定を違憲無効とするのでは救済にならない場合がある」として、「差別された者に本来認められるべきであった権利を裁判所が認める法理論を考えるべき」として、国籍法違憲判決を例として具体的な理論を検討している。

⑤ 長谷部恭男「憲法(第6版)」

やはり14条1項の枠組みの中で、再婚禁止期間、非嫡出子に対する差別などを論じ、さらに「差別禁止の制度的具体化」として、「家庭生活における平等」が検討されている。

明示的ではないものの、24条は婚姻の自由の概念を前提として、各人な自由な意思として婚姻という結合関係を取り結ぶならば、その内容は夫婦同権と相互の協力を要するものとし、「それ以外の家庭のあり方は、法によって承認され、保護される対象とならない」と述べる。

辻村教授はこの点、「リベラルな契約的婚姻観に立つと共に、法的に承認された婚姻関係以外の結合関係に対して法的保護を与えないことも立法裁量の範囲内として正当化しうる点で、婚外子や同性カップルに対する差別立法にもつながる危険をはらんでいるといえよう」とも指摘される。

⑥ 渋谷秀樹「憲法(第2版)」

家族に関する自己決定は、13条ではなく、24条に関する問題と位置づけ、「第4章 共同生活 第2節 集う自由」の中で、「第3項 家族形成の自由」を検討する。

・婚姻の自由を明示的に認める。
・憲法24条1項は、婚姻が両性の合意に基づく契約的関係であることを要求
・同性婚は、異性間の婚姻と同程度に補償されると解することは困難ではあるものの、婚姻に準ずる関係の可能性に言及
・733条、750条の違憲性に言及
・その他、生殖の自由や少子化対策にも言及

辻村教授は、結社の自由とパラレルに捉える点は議論の余地があろうとするものの、家族形成が本来1人ひとりが決定する個人的な問題であるとの視座に立ち、多様な家族観を持つ個人を公平に支える社会環境の整備ではなく、一定の家族観を前提としそれを推奨・促進する施策の違憲性を論じることは妥当と評価される。

⑦ その他

次のような文献を挙げられます。

米沢広一「子ども・家族・憲法」(1992年)

家族の憲法化が問題になり始めた1990年代前半の研究書。
子どもの人権や家族の視点から憲法適合性を見直した貴重な成果。

若尾典子「ジェンダーの憲法学」(2005年)

2003年12月のジェンダー法学会創設以後、次第に確立されるなかで、初めてジェンダーの視点から憲法を見直した講演録をもとにまとめたもの。
・憲法が家族保護を規定すると特定の家族観が強制される危険性を指摘
・24条は近代家族制度も特定の家族像の強制として否定していると解釈
・750条の違憲性に言及

中里見博「憲法24条+9条」(2005年)

2000年以降の自民党の復古主義的、軍国主義的改憲論の危険性を説くもの。

辻村教授のまとめ

近年刊行された憲法学教科書では、14条に続いて、家族における平等の問題として、24条を別項目で論じるものが少しずつ増えているが、まだまだ主流になったとは言えない。24条の「個人の尊厳と両性の本質的平等」の基本原則は、憲法24条のみならず13条とも深い関係をもっており、13条の人格権や自己決定権との関係での理論的な深化が求められる。
前掲辻村P.148

私見ですが。。。

ここで若干の私見をしたためておきますと。

まず、2000年以降近年の主要な憲法学教科書も、ポピュラーに読まれている・言及されている教科書(研究書)での、憲法24条の議論は全体的に低調といえると思います(上記①~④)。これは、君塚教授の論文で多く触れてきたように、現在の主要な憲法学説は、24条の法的性質を、依然として14条の特則(平等権説)説を採用し、憲法訴訟も14条を中心として展開されているため、24条の問題を独立して扱う必要性がなかなか高まらない事情があると思われます。

また、上記中里見教授の著作にあるように、憲法学は、長く君臨する強大な保守政権と対峙し、復古主義・軍国主義的改憲の阻止に注力してきた、という政治的背景も影響しているのではないでしょうか。

一方、かつて女性法学(法女性学)、現在はジェンダー法学として定着した、男性中心的な法学理論への問い直しが、個人の自己決定や家族の多様性の擁護という視座から、24条の従来の解釈枠組みを揺り動かしている、ともいえると思います。

来週以降、君塚教授、辻村教授が論じきれなかった部分について、ささやかな挑戦をしていきたいと思います。

(この連載続く)

【連載一覧】

無料で「Law Journal Review」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

誰でも
水野家族法学を読む(30)「離婚/離婚訴訟に関する法的規整を考える(1...
誰でも
水野家族法学を読む(29)「離婚法の変遷と特徴を考える」
誰でも
水野家族法学を読む(28)「公正な秩序なき財産制」
誰でも
水野家族法学を読む(27)「夫婦の財産関係を考える」
誰でも
水野家族法学を読む(26)「"自分の名前"で生きる権利を考える」
誰でも
水野家族法学を読む(25)「不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権②」
誰でも
水野家族法学を読む(24)「不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権①」
誰でも
<お知らせ>ニュースレター「水野家族法学を読む」を再開します