憲法24条研究ノート(10)学説⑥その他の憲法学説・民法学説

君塚正臣横浜国立大学教授の論文に沿って読み解く、憲法24条の学説紹介第6弾。
今週は残り学説を一気にまとめてご紹介します。
foresight1974 2021.07.21
誰でも

こんばんは。
君塚先生の次の論文紹介も終盤戦に差し掛かってきました。
今週はだいぶ飛ばしてご紹介します。

<参考論文>
君塚正臣「日本国憲法24条解釈の検証ー或いは『「家族」の憲法学的研究』の一部として」関西大学法学論集52巻1号(2002年)

その他の憲法学説

今まで見てきたように、君塚教授は、戦後、日本国憲法が成立してからの学説を網羅的に検証してきました結果、「二四条が平等権的性質も有することは、「両性の合意」や「両性の本質的平等」を重ねて明示することからしても否定できないように思われる。」としつつも、「課題は、二四条が単なる男女平等の特則ではなく、それ以外の要素を含む理解に進むべきことにあるのではないだろうか。」と指摘されます。(前掲論文P.29)

平等権と幸福追求権の両方の特別規定とする説

(新判例コンメンタール)
24条は、憲法13条と憲法14条の一般原則を、婚姻および家族生活の領域において具体化された規定とする。執筆者は大山儀雄。

(辻村みよ子)
理論的には、婚姻の自由およびその消極面としての非婚・離婚の自由を個人に保障している、という点から出発し、一三条の幸福追求権(自己決定権)の一環ととらえる。さらに、二四条二項は、配偶者の選択・財産権・相続・離婚のほか婚姻および家族に関するその他事項に関する法律が、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなけらばならないとする。

※辻村説については、後日再説します。

(松井茂記)
家族の問題を、平等と、家族形成・維持に関わる自己決定権の問題に分けて検討する。
これはいわゆるプロセス的憲法観に立っているため、一般的な憲法理論とは異なる面がありますが、政治参加のプロセスに不参加の権利かどうかで、違憲審査基準が異なる。

結社の一場面とする説

(初宿正典、渋谷秀樹、赤坂正浩)
初宿は、家族を、精神的自由権の中の人的結合の自由の一場面、「もっとも小さな共同体」と捉える。24条は、「家族にかかわる明文規定」であり、家族は個人および社会の基本的な要素」であるとする。しかし、想定する家族形態は、夫婦と未成年子という従来の婚姻家族規範であり、同性婚やシングル家庭は射程に入っていない。
これと同旨の学者として、渋谷秀樹、赤坂正浩らの名前が挙げられているが、渋谷は、初宿よりも違憲審査基準が厳格であり、初宿が合憲と考える非嫡出子の相続差別については違憲と評価している。

民法学者たちはどう考えていたのか

君塚教授は、論文の後半部分に、民法学者たちが24条からどのような影響を受けているか、学者たちの世代別に分けて考察しています。

①戦前に民法学者としてデビューした世代

(我妻栄)
人権全体を大きく自由権的基本権、生存権的基本権に分類したうえで、24条を自由権的基本権に位置付ける。24条は、法の下の平等、とくに家族生活における男女の本質的平等、精神および肉体の自由の保障の1つとしての、婚姻の自由と捉える。
だが、自身の体系書においては、24条の指針についてほとんど述べることがなかった。

(中川善之助)
24条が旧来の封建的家制度とそれを支える思想を排斥した、という点で24条の立場を強く支持している。だが、いわゆる中川理論に見られるように、財産法に対する家族法の特殊性を強調しする立場としては、24条が家族法に与えたインパクトを積極的には認めていない。

***

この世代では、戦後民法の成立にかかわったという立場もあって、日本国憲法の理念を戦後民法に反映したという自負が大きく、家制度の残滓という問題意識やそれらの規定の違憲性といったことは全く問題とされていなかったことが特徴的です。

②戦前に生まれ、戦後に民法学者となった世代

(久貫忠彦)
家族法への影響は、専ら憲法13条・14条から受けているとする。

(中川淳)
日本国憲法の成立にもかかわらず、親族間の扶助規定や祭祀の承継など、家の亡霊に取りつかれている規定の存在を指摘する。しかし、立法的には削除を主張しながらも、その合憲性を正面から論じることはない。

***

この世代では、家族法が違憲性の問題を生じるという意識はなお希薄ではあるものの、現実の変化をふまえ、見直していく必要性に直面した世代で、「立法論としての改正」を主張する世代でもありました。

③戦後生まれ世代

(二宮周平)
日本国憲法の制定と戦後民法改正の意義を家制度の廃止にとどめていない点が特徴的。
戦後における家族の変化を捉え、家族の制度かを強めれば、社会が安定するという関係はなくなった。そこで家族法の役割は、家族の制度かよりも、多様な家族ニーズに応え、かつ当事者の人権と自律を尊重し、その自主的な紛争解決を援助することにあるようになった、としたうえで、男女の平等と個人の尊重という憲法の原則を確認し、現実の家族生活の中に定着させる、すなわち家族法の憲法化の推進を主張する。
そして、非嫡出子の相続差別や婚姻時の夫婦同氏制度を明確に違憲と評価する。

(大村敦志)
親族法を狭義の家族法と定義するなど、新しい家族法概念を提唱する。
戦後民法改正は当時としては先進的であったが、「高齢化/流動化/国際化」をキーワードとする戦後家族の動揺が起き、習俗が法律を追い越す兆しを見せているとする。
これまでの民法学者と異なり、夫婦+未成年子という婚姻家族(核家族)モデルを否定し、よるべき家族モデルはないとする。現存するさまざまな家族とそれに対する法的処遇を出発点としつつ、複数の家族類型を再編成するという方法(多元モデル論)を提唱する。

憲法論では、家族法は日本国憲法の違憲審査の対象となることを明言し、24条のいう個人の尊厳と両性の本質的平等は、家族に関してのみ求められる要請ではなく、憲法の人権総則ともいうべき2つの規定(13条・14条)において、この要請を確認している。家族に関する諸問題は、24条だけで独立して論じられるのではなく、13条・14条との関連で論じるとする。

24条は、単に13条・14条の特則ではない。一種の婚姻保護条項と読む。ただし、いかなる家族にいかなる保護が保障されるかは明らかではない、とする。

***

二宮教授・大村教授とも、これまでの民法学者とは異なり、憲法論に大きく踏み込んではいますが、その憲法判断は、君塚教授の論文執筆時点(2002年)ではいまだ部分的であり、当時、話題となっていた憲法訴訟(非嫡出子の相続差別)にとどまっています。
後に大きな憲法訴訟となる再婚禁止期間や婚姻時の夫婦同氏制に関する議論はほぼ登場していません。

(この連載続く)

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