水野家族法学を読む(20)「婚姻の無効と取消」

今週も、「法学教室」2021年9月号から。婚姻の実質的要件が欠けた場合の法律効果についての解説を読んでいきます。
foresight1974 2021.10.12
誰でも

これまで述べてきた婚姻の成立要件

①婚姻の届出(形式的要件)・・・第17回参照
②婚姻意思の合致(実質的要件その1)・・・第17回参照
③婚姻障碍事由の不存在(実質的要件その2)・・・前回記事

実質的婚姻要件不存在の効果

②婚姻意思の不存在

要件の不存在は婚姻無効。
しかし、無効の効果を定める条文がないため、問題となる。
※民法742条は、「無効とする」と定めているだけ。

(判例・通説)
絶対的無効説(戸籍に婚姻が残っていても無効を主張できる)
最初から婚姻はなかったものと取り扱われる。

(関連判例)
婚姻意思がなく無効な婚姻届出であっても、婚姻届を作成提出した当時において、夫婦としての実質的生活関係が存在しており、後に配偶者の一方が届出の事実を知ってこれを追認したときには、婚姻は追認によってその当初から遡って有効となる。(最判昭和47年7月25日)

③婚姻障碍事由の存在

無効とはならず取消しとなりますが、水野先生の議論の焦点はこちらになります。

「法学教室」2021年9月号では、2つのケースを挙げています。

A.近親相姦から生まれたケース

近親婚から生まれた子については、そのような親子関係をもつことそのものが、本人にとってスティグマとなる可能性が高い。フランス法は、近親相姦から出生した子について、法的親子関係を作ることを一方の親としか許していないが、それは、近親相姦を明示する法的親子関係をもつことの重さをその子に強いるわけにはいかないという判断からである。インセストタブーという観念は人類社会にとってかなり根源的なものであり、そのタブーは優生学的な見地からもまた家庭生活を営むためにも必要な観念であるから、人類社会から失われることはないだろう。日本法は、父娘あるいは兄妹から生まれた子であっても、認知されれば、戸籍にその親子関係が記載されるが、そのスティグマ性を考えると、フランス法的な対応も考慮に値する。
P.72

B.重婚のケース

日本法独自の重婚の現れ方、つまり協議離婚と戸籍制度の合体による特殊な重婚においては、重婚者は、善意どころか、協議離婚届の偽造という違法行為をあえて行った者であることがある。もちろん偽造の離婚届提出行為は、形式的には刑法157条の公正証書原本不実記載罪にあたる行為であるが、離婚無効確認訴訟において離婚意思の有無がめぐって争われるような民事の案件では、通常は、刑事立件はされない。重婚者は、離婚訴訟を起こしても敗訴する有責配偶者であることが多い。前婚が事実上の離婚状態でいる間に、恋人との間に子が出生する事態になり、その子を嫡出子としたいという動機等で、離婚届を提出するのである。
同上

(判例)最判昭和57年9月28日
前婚の妻が後婚の取消しを請求したところ、一審で敗訴した後婚配偶者が協議離婚→請求却下。
「後婚は形式的に離婚しただけで婚姻の実態は継続しており、離婚ではなくあくまで違法な重婚として取り消されるべき」
最高裁「遡及効のない取消しと離婚は効果に変わりはない」として上告棄却。

しかし、水野先生は、次のような(1)・(2)図式でこれを矛盾だと指摘します。

(1)重婚的内縁→不貞行為、共同不法行為者(判例)
(2)協議離婚届を偽造した場合→ばれなければ後婚は正規の婚姻となり、重婚的内縁から生まれたことは正規の嫡出子として準正される。

そして、水野先生はこう続けます。

その構造的な原因の一つは、身分証書という身分登録簿を前提として構築されている民法を、戸籍という身分登録簿をもつ日本法が継受したことにある。
P.72~73

(続く)

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