ネット論客論駁ノート(3)「論証の基本技術」

説得力のある論証って、どのようなものでしょうか?
twitterでみかける議論を素材とした、論駁ノートの連載第3弾。
foresight1974 2021.04.23
誰でも

以下は、私と相互FFのkozakana-sakanakoさん( @KSakanako )が、いわゆる「子の連れ去り」論について、相手方の主張を綺麗に論駁したものです。

※ご本人のご承諾を得て掲載しております。

①ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
2021年4月13日、嘉田由紀子議員の参院法務委員会の質疑で、刑事局長が、子連れ別居を違法と認めたように喧伝されているようです。ご不安な方がいるといけないので詳細についてご報告します。嘉田議員の冒頭「子の連れ去りを犯罪とするような刑法の改正、これはまず法務大臣はどうお考えでしょうか。」
2021/04/15 07:58
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②ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
という質問に対して、上川法務大臣は、「最高裁判例を引用して、「親権者による行為であっても、他の親権者が監護養育している子を、その生活環境から引き離して、自己の現実的支配下におく行為は、いま申し上げた略取・誘拐罪の構成要件に該当しうる」と答弁しました。
2021/04/15 07:59
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③ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
ここにいう最高裁判例とは、最二小決H17.12. 6のことだと思いますが、これは、離婚係争中、母の監護下にあった2歳の子どもを、非監護親が保育園帰宅時に有形力を行使して奪取したという事案であり、子連れ別居に一般化できるものではありません。
courts.go.jp/app/hanrei_jp/…
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan www.courts.go.jp
2021/04/15 08:02
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※最ニ小決・・・最高裁第二小法廷決定の略。

④ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
そのため、上川法務大臣は、「経緯やこの対応等を一切問わず、一律に違法性が阻却されないようにすることにつきましては、その場合の保護法益をどのように考えるのか、また民事法上の親権・監護権との関係をどのように考えるか、
2021/04/15 08:04
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⑤ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
また現行の未成年者略取・誘拐罪等による処罰範囲を超えて処罰することとする事の相当性につきまして、どのように考えるかなどの点も含めまして、慎重な検討を要するものという風に考えられるところでございます。」と答弁しました。
2021/04/15 08:04
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⑥ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
これに対し、嘉田議員が、「ご丁寧にありがとうございます。現行法上の刑法224条、未成年者略取・誘拐罪でもいまの連れ去りについては刑法の対象とすることができると理解させていただきました。」と受けたのですが、この時点で嘉田議員から、「いまの連れ去り」なる概念の説明がなかったため、
2021/04/15 08:05
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⑦ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
あたかも子連れ別居一般が違法になるかのような印象が生じてしまいました。その後、嘉田議員の、「例えば、離婚係争中とか別居中の夫婦、あるいは離婚別居の話もない日常的な普通の日常の中で、子供が平穏な中に連れ去られたり、あるいは連れ戻されたりした場合、
2021/04/15 08:06
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⑧ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
こういうときでも未成年者略取・誘拐罪に問われる可能性があると考えてよろしいでしょうか。」という質問に対して、川原刑事局長の回答は、「犯罪の成否は捜査機関により収集された証拠に基づき、個別に判断される事柄でございますのでお答えは差し控えさせていただきたいと存じます。」です。
2021/04/15 08:06
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⑨ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
つまり、上川法務大臣も川原刑事局長も、最高裁判所の判例を超える内容の答弁などしていません。むしろ、上川法務大臣は「一方の親による子の連れ去りにつきまして、経緯や対応等を一切問わず、一律に違法性が阻却され
ないようにすることにつきましては慎重な検討を要するものと考えております。」
2021/04/15 08:07
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⑩ツイート

kozakana-sakanako
@KSakanako
「刑罰という保護手段は法的制裁のなかでも最も峻厳なものであり、避けることができるのであれば避けるべきもの、との考え方があるものと承知しているところでございます。」と回答しています。

どうか、皆様、惑わされませんよう。DVからの避難を萎縮させる一切のバックラッシュに反対します。
2021/04/15 08:12
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2021年4月13日に参議院法務委員会で行われた質疑で、嘉田由紀子参議院議員が、離婚・別居時に子どもを連れて同居親が転居した行為について、嘉田議員が「連れ去り=違法(誘拐罪)ではないか」と質したところ、政府が子連れ別居を違法と答弁した、とネット上に流布されていることに対し、実際の国会質疑の記録を基に否定したものです。

主張に必ず論拠となる事実を示す

kozakana-sakanakoさんは弁護士をなさっているとのことですが、専門家なので、論理的な文章を書き慣れておられるのでしょう。

合計10ツイート。twitterで読むにはギリギリの長さですが、この論証の難しいところは、嘉田議員が子どもの連れ去りを未成年者略取罪に該当すると判断した、最高裁判所の平成17年決定を引用している点に、事実誤認が含まれている点を説明する必要があるためです。

論証の構造は次のようになっています。

①・②・・・嘉田議員が「引き出した」とされる質疑を正確に紹介。
③・・・①②が誤解に基づくものであることを指摘。
④⑤・・・③の論拠となる、上川陽子法務大臣の答弁を引用。
⑥⑦・・・ネットで「誤解」が流布されるようになった、嘉田議員の発言を指摘。
⑧・・・嘉田議員の見解を否定する。法務省担当者の答弁を引用
⑨⑩・・・kozakanaさんの結論

常に誤解されている意見に対し、事実に基づいた論拠(④⑤⑧)を示して論駁しています。
論拠となる④⑤⑧を見た後に、①~③、⑥・⑦を見返すと、一般的な読解力を期待できるならば、「子の連れ去り=違法」という主張の論拠にならないことが十分に読み取れます。

これが、論証の基本技術のエッセンスです。

問題は、それをどのくらいのレベル感で提示するか、にあります。

演繹と推測

論理的思考のロングセラーである、野矢茂樹東京大学教授の「論理トレーニング101題」では、このような説明がなされます。

論証とは、ある前提からなんらかの結論を導くことにほかならない。それゆえ、もっとも厳格な正しい論証は、「A。したがって、A」、あるいは、「A、なぜなら、Aだから」という同じ主張のくりかえしである。例えば、「今日は雨が降っている。なぜって、雨天だからね」のように、だが明らかに、こんな論証は使いものにならない。
ある前提Aから、Aとは違うBを結論しなければならない。しかし、なぜ、AからAと異なるBが導けるのだろうか、ここに論証の持つ力ときわどさがある。前提から結論へのジャンプの幅があまりに小さいと、その論証は生産力を失う。他方、そのジャンプ幅があまりに大きいと、論証は説得力を失う。そのバランスをとりながら、小さなジャンプを積み重ねて大きな距離をかせがなくてはならない。それが、論証である。
野矢茂樹「論理トレーニング101題」(産業図書)P.79

若干、文学的修辞を交えた「論証」の説明は、論証の「醍醐味」を十二分に教えてくれます。

論証とは、論理学という科学的・合理的思考力とは別に、”文学的センス”が必要であるこを示唆し、また、論証には「バランスを取りながら大きな距離を稼ぐ」という、相反する問題をクリアするリスクテイクのセンスを必要とすることを指摘しています。

野矢教授は、論証の基本的技法として、

演繹・・・根拠とされる主張を認めたならば結論も必ず認めなくてはならないような決定的な力を期待されている導出
(例)「トマトは酸味があり、酸味はビタミンを安定的に保たせるため、トマトの缶詰はビタミンをそれほど減少させない」

推測・・・ある事実をもとに、それを説明するような仮説を提案するタイプの導出
(例)「台所から今に濡れた跡が点々と続いている。うちの猫が流しで水遊びをしたに違いない」

という2種類を紹介しています。

では、kozakana-sakanakoさんの論証はどっちでしょうか?
論駁の形式なのでちょっと紛らわしいですが、「子連れ=違法」という相手の主張(①②⑥⑦)を演繹的に否定しているといえます。
(ツイート④⑤⑧で示した事実は、相手方の主張①②と⑥⑦の主張とは整合しない事実を指摘してし、かつ、自身の主張③を補強する根拠となっているためです。)

twitterの議論も使いよう

このように論理学的な見方から解析してみると、一見、不毛なやり取りに見えるtwitterの議論も、「脳トレ」的に楽しめるものに見えてきませんか?

kozakana-sakanakoさんレベルに達するのには、さすがに長年の経験と研鑽が必要ですが、こうして、科学的アプローチを知っておけば、誰でも、ある程度(というか、かなり高いレベルで)論理的な議論を展開することが可能になります。

それも、高校生の時までに授業で習った技術で十分なのです。

(この連載続く)

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