憲法24条研究ノート(8)学説④平等権説

君塚正臣横浜国立大学教授の論文に沿って読み解く、憲法24条の学説紹介第四弾。
いよいよ真打登場です。
foresight1974 2021.07.07
誰でも

今週もこの君塚先生の次の論文から学説紹介をします。

<参考論文>
君塚正臣「日本国憲法24条解釈の検証ー或いは『「家族」の憲法学的研究』の一部として」関西大学法学論集52巻1号(2002年)

今週はいよいよ平等権説に入りますが、たぶん、読者の大方も予想されているとは思うのですが、これが通説です。
理由は問うまでもなく、条文の文言対比からして一番自然ですよね。

ただ、白状しますと、私は、憲法24条がなぜ24条にあるのか、学生時代に疑問に思っておりませんでした。。。
後述するように、14条の特則と考えるならば、法律作成のルール上(法制執務といいます)14条4項だったり、15条だったり、あるいは14条の2といった条文番号が振られるはずですが、24条なんですよね。
ここらへんが、憲法24条の不思議さといいますか、勉強していて大変面白いところです。

錚々たる学者たち

今までの連載で取り上げた学者たちが"錚々たる"に含まれないことを疑問を持たれる方もいらっしゃるでしょうが(先週までの諸先生方も十分に"錚々たる"方々です!)、「学生でも知っているレベル」ではないかな、とは思います。

今週は、学生でも一般の方でもご存知の名前がざくざく出てきますので。

<美濃部達吉>
天皇機関説の方ですね。
1948年に亡くなっていますが、晩年は、松本委員会で憲法改正に携わった後、戦後憲法学に先鞭をつけています。
英米法に範をとった日本国憲法は、ドイツ法系の彼の憲法学では異物だったと思われるのですが、短い時間で換骨奪胎してみせます。

明治憲法の改正に抵抗を見せた美濃部も、憲法が改まればその解釈の提示は早かった。美濃部は「人格の平等」という項目の冒頭において、「平等主義は自由主義と共に国民主権主義と離るべからざる関係に於いて相結合して発達し来つたもので、我が新憲法も亦国民主権主義と共に平等主義の原則を確認し、二箇条に分ち、第十四条には各人の法律上の平等及び華族制度の廃止に付き、第二十四条には婚姻及び家族生活に於ける平等に付き規定して居る」と記述する。そして、これが「舊来の民法に対し根本的な一大変革を加へんとするもの」であり、「家の制度が廃止せられた」ことに伴う諸制度の改正を求めているとして、二四条の焦点は家族制度の廃止にあるとした。
前掲君塚論文P.27

これに戦後憲法学を牽引した著名学者たちが続きます。

<佐藤功>
明治憲法が範囲外に置いていた私的な生活の面での平等の問題を、憲法二四条が「平等の原則の具体化」として捉えた。そして、「家族制度の否定にほかならない」とする。

<伊藤正己>
全体として男女の平等を重視しつつ、明治憲法のもとでの旧民法を近代化することを指示している。

<芦部信喜>
戦後憲法学の第一人者。
君塚教授は次のように説明しています。

人権を「包括的基本権」「法の下の平等」「自由権」「参政権」「国務請求権」「社会権」に分類しているが、ここには二四条は登場していない。これ以外の権利の中には、「必ずしも一義的に分類できない権利もあるが、いずれかに関連付けて考えることが可能であろう。」とし、人権の分類が相対的であることに留意しつつ、「家族」の問題は「平等」の部分で扱っている。
同上

と書かれていますが、芦部の最晩年の著作の1つである「憲法 新版補訂版」(岩波書店)P.123では、憲法における平等権ないし平等原則の徹底化の1つとして二四条を挙げていますので、芦部説は明確に平等権説と評価しうると思います。

<佐藤幸治>
憲法は、民法旧規定下の家制度を否定する趣旨から、一四条一項を受けてさらに入念に二四条を規定したとする。そのため、婚姻適齢、再婚禁止規定、非嫡出子の相続差別には厳格な審査基準が妥当するとする。

<高橋和之>
明示的ではないが、憲法二四条の問題を性別の平等の部分で論じている。(※1)

<戸波江二>
二四条を平等の問題として解説するが、「家族の尊重は、個人の自由・平等と対立する契機もはらんでいることが留意されるべきである」とする。

君塚教授の批判

君塚教授は、この平等権説が「通説かつ圧倒的多数説」であるとは認めるものの、「その根拠・理由が十分に展開されたかと言えば、必ずしもそうとも言えなかったのである。」(P.28)と問題を提起されます。

<君塚教授の指摘のポイント>

①自由権と社会権の狭間の条文が、突如として平等権の飛び地だという配置は不可解な面がある。

②平等の中でも、あまりに男女平等の特則として特価して読み込んできたきらいが強かった。例えば、平等が主体だとしても、男女という属性以外の、家族構成員の平等、例えば非嫡出子差別の問題がこの射程にあることなどは最近(※2)まで認識されてこなかった。

③個人の尊厳が両性の本質的平等と並んで記されていることがほとんど考慮されていない。典型的には、夫婦別氏論の問いかけにより、形式的平等の現行法の前で憲法学はその対応に苦慮することになっている。(※3)

④家族に関する様々な自己決定権の問題を一三条の幸福追求権の問題と理解し、二四条の射程を非常に狭く理解してしまうことになる。

⑤二四条を一四条の確認規定(※4)に過ぎないと考えがちで、解釈展開が乏しい。

そこで、君塚教授は、「二四条の「個人の尊厳」は、この問題における様々なアクターと「一般社会の間にどのようなルールを作るべきかを指導する基本理念として再構成されるのを待っている」と言えるのかもしれないのである。」と指摘されています。

(この連載つづく)

※1 この評価方法を是とするならば、君塚教授が分類不能とした学説の中にも、一四条の特則と評価している学者がいるとみられます(例:浦部法穂教授)。私見ですが、評価分類の一貫性に欠けるかな、と思われます。

※2 この「最近」は2002年のものです。

※3 何度か述べていますが、かつて、憲法学では民法750条を違憲と評価する学説は非常に少数でした。その点では実務法曹の弁護士たちの方が、先進的な議論を展開していた、と記憶しています。

※4 今週取り上げた各学者の基本書を確認しましたが、その大半は、「性別差別」の問題で男女平等を議論しており、二四条に独自の意義を見出す学者はありませんでした。

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